7月号特集)Kinari
思いを言葉に、言葉を行動に
学びが支えた経営者としての成長
ひとりで事業を営む経営者にとって、日々の業務と将来への投資を両立させることは簡単ではない。
「Kinari」を営む鈴木久美帆氏もまた、事業が軌道に乗る一方で、新たな挑戦に時間を割けない悩みを抱えていた。創業塾、未来構想塾、DX経営塾での学びを通じて、自らのビジョンを整理し、行動へとつなげてきた歩みを追う。
▲創業塾や未来構想塾、DX経営塾で出会った仲間も大きな財産。異業種の経営者との交流を通じて、新たな視点や気づきを得た
植物療法やストーンセラピーを取り入れた施術を行う女性専用リラクゼーションサロン「Kinari」。前職の顧客を引き継がず、ゼロからのスタートだったため、創業当初は集客やリピート率の向上、価格設定などに苦労したという。
転機となったのが、創業と同時期に参加した浜松商工会議所の創業塾だ。「それまではセラピーとハーブの知識しかなく、事業を運営するための知識が必要でした」と鈴木氏は振り返る。創業塾では事業計画の作成や販路開拓、資金調達などを学び、経営者としての土台を築いていった。
その後、未来構想塾や、よろず支援拠点※で学びを重ねる中で、集客も徐々に安定していく。しかし、新たな課題も見えてきた。施術や日々の業務に追われ、新しいサービスのアイデアがあっても形にする時間が取れなくなっていた。
※よろず支援拠点……国(中小企業庁)が各都道府県に設置している経営相談窓口
そんな中、よろず支援拠点でDXの活用事例に触れたことが次の転機となる。当初は「自分にはまだ早い」と感じていたが、担当者との会話で心理的なハードルが下がり、「和田先生の話を聞ける機会は貴重だから」という一言が、DX経営塾への参加を後押しした。
経営の軸を言語化する
DX経営塾で鈴木氏の印象に強く残ったのは、音声データを文字起こしし、AIが扱いやすい構造化データへ変換、分析する一連の流れだった。
「まるで魔法を見ているようでした。サロンには数百人分の顧客カルテがありましたが、データとして整理することで経営判断に生かせる資産になると気づいたのです」
塾ではKGI(重要目標達成指標)、KPI(重要業績評価指標)を明確にしながら、事業のビジョンや自社のバリューを言語化。DXを活用し、新たな価値を創出するためのロードマップ「AIリスキリングステップ」を作成した。
現在はChatGPTやGeminiなどの生成AIを積極的に取り入れている。プレゼン資料の作成や情報整理に役立てることで、以前なら時間的に難しかった提案も短期間で、質を落とさず形にできるようになった。さらに、事業アイデアの壁打ち相手としても活用し、考えの漏れや偏りがないか確認しながら意思決定に役立てている。
生まれた時間を、新たな価値へ
DX経営塾での学びを通じて、鈴木氏の意識にも変化が生まれた。これまで大切にしてきた施術やお客さまとの関わりを軸に、事業全体をどう育てていくかをより意識するようになったという。
「DXの本質は効率化ではありません。生まれた時間やエネルギーを何に使うかが大切なのです」と語る。デジタルを活用し、事務的な負担を減らしたことで、お客さまとの対話や現場で得られる気づきといった1次情報に、これまで以上に目を向けられるようになった。
現在は、高齢者施設や障がい者施設でのハンドケアボランティアにも取り組んでいる。スクールの受講生も巻き込みながら活動の輪を広げ、今後は企業向けの健康経営支援やセミナーなどにも力を入れていく考えだ。
創業塾で経営の基礎を学び、未来構想塾でビジョンを描き、DX経営塾で具体的な行動へ落とし込む——。学びを通じて培われた視点は、鈴木氏の意思決定を支え、新たな価値創出への挑戦につながっている。
■意思決定力改革塾 統括講師からのコメント
AI導入は今や誰でもできる時代です。にもかかわらず成果に差が出るのは、「1次情報を構造化できているか」に尽きます。価値あるデータは外にあるのではなく、日々の業務に埋もれています。それを掘り起こし、再現性ある形に変換できるかが経営の分岐点です。本取り組みでは、勘や経験に頼っていた1次情報を構造化し、AIと組み合わせることで価値創出へと昇華させています。さらに、AIをたたき台とし、最終判断は人が担う使い分けも秀逸です。DXとは効率化ではなく変革であり、AIは意思決定を加速させるパートナーです。DXの本質に向き合った好事例と言えるでしょう。
(モノデジタル株式会社 代表取締役 和田正典氏)
リラクゼーションサロン
Kinari
鈴木久美帆代表
植物療法やストーンセラピーを取り入れたプライベートサロン。自然の力を生かした施術を強みとし、ハーブ療法の提案やセミナー事業も展開。鈴木氏はセラピスト歴13年以上、延べ1万3000人以上の施術実績を持ち、心身のトータルサポートを行っている。
●磐田市見付
HP:https://www.kinari-care.com/