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6月号特集)富塚スポーツ

2026年06月01日

スポーツ施設リニューアルを通じて価値を問い直す

地域に愛され続ける場のつくり方


株式会社富塚スポーツ 髙橋晴久 代表取締役(右) 髙橋利幸 常務取締役(左)

親族内承継[父▶息子]2026年6月30日予定

地域に根差した事業をどう引き継ぎ、どう更新していくのか。創業40周年の節目を迎えた「富塚スポーツ」は、事業承継と施設リニューアルという転機に際し、「変えるべきもの」と「残すべき価値」を見極めた。
補助金や専門家の支援を活用した計画的な承継と投資から、地域密着型事業の持続に向けたヒントが見えてくる。


1986年に設立し、今年で創業40周年を迎えたバッティングセンター「富塚スポーツ」。卓球やオートテニス、空手道場などを備えた複合スポーツ施設として長きにわたり親しまれてきた。

しかし、かつて浜松市内に30軒ほどあったバッティングセンターは、現在ではわずか2軒にまで減少している。それでも同施設が存続してきた背景には、近隣に小学校5校、中学校4校、高校3校、大学2校が集まる立地が挙げられる。通常の個人客のほか、周辺の中学・高校の野球部やクラブチームによる利用、そして長年培ってきた地域との関係性が持ち味だ。

「継ぐかどうか、特に大きな決断をしたという感覚はなかったですね」と、笑いながら語るのは、後継者である常務取締役の髙橋利幸氏。大学卒業後は住宅設備の仕事をしながら、同施設のメンテナンスに関わってきた。2013年に入社後、現場から経営にまで関わる中で、立地の強みや経営の安定性を実感し、次第に「引き継いでいくのもいいかな」と考えるようになったという。

一方で、施設の老朽化は進み、更新改修は避けて通れない課題となっていた。

“らしさ”を残すリニューアル

承継にあたり、老朽化対策と利用者の体験価値向上を目的に、大規模なリニューアルを実施した。バッティングマシンの入れ替えやネットの張り替え、照明の改善に加え、コンクリート打ちっぱなしだった床面をカラー塗装するなど、施設全体を刷新。同時に、「富塚スポーツらしさ」を損なわないことも重視した。

「昭和の雰囲気やアットホームな空気感を気に入って来てくれる人も多い。そこは壊したくなかったんです」と利幸氏。新たに導入したランダム投球機能付きマシンは、社会人野球経験者のニーズを踏まえて導入したもので、施設全体のターゲット層を大きく変えるものではない。「新しいお客さんを呼び込むというより、いま来てくれている人がより楽しめるように」という考えが根底にある。

ビデオゲームコーナーを撤去し、複合スポーツ施設としての純度を高めた点も象徴的だ。「アットホームな雰囲気」「地域密着」といった従来の強みを守りながら、競技志向の学生から家族連れまで幅広く楽しめる施設へと充実させた。

補助金と専門家を活用し 承継と投資を同時に進める

今回のリニューアルと事業承継をサポートしたのが、商工会議所や専門家の存在だ。補助金の活用をきっかけに、中小企業診断士と事業承継計画書を作成し、経営の方向性を整理した。資金調達は、事業承継・M&A補助金、融資、自己資金の3本柱で構成されている。

専門家が関わることで計画の精度が高まり、承継までの道筋が明確になった。単なる「親子の代替わり」にとどまらず、戦略的な設備投資と計画的な事業承継を同時に進められた点は大きい。

変わっても、変わらない関係

3月のリニューアル後、来場者数は約1割増加。新規客に加え、常連客の満足度も高まっている。中でも変化が見られるのが利用者の広がりだ。

ストラックアウトの導入により、野球未経験者や親子連れも遊び感覚で楽しめるようになった。兄はバッティング、下の子と母親は卓球といったように自由に過ごす姿も多い。女性グループやカップルの来場も目立ち、リニューアルの効果が着実に表れている。

施設が新しくなっても、利用者との関係は変わらない。多くの客が「こんにちは」「ありがとうございました」と声をかけていく。その光景は、同施設が単なる娯楽施設ではなく、地域に根差した場所であることを教えてくれる。

「元の良さを残しつつ、時代に合わせていくことが大事」と語る利幸氏。今後はバスケットボールなど、新たなスポーツ要素の導入も視野に入れ、複合スポーツ施設としての魅力をさらに高めていく考えだ。地域に根差した「トミスポ」が、これからも“そこにあり続ける”ための挑戦は続いていく。


専門家が解説!承継ポイント
事業承継計画は円滑な引継ぎのためのロードマップ
利幸さんは父親から事業を引き継ぐつもりでいたものの、今回のことがあるまでは、事業承継の時期や、承継に向けて準備すべき事柄が明確でなかったとのことでした。商工会議所や補助金申請支援者の協力を得て事業承継計画を策定したことで、現在から事業承継までの、そして事業承継後に行うべきことを具体的にイメージするきっかけにしていただいたと思います。
(静岡県事業承継・引継ぎ支援センター エリアコーディネーター小西兼幸氏)


株式会社富塚スポーツ
1986年設立。バッティングセンターを中心にした複合スポーツ施設。部活動の練習拠点のほか、親子連れや3世代での来場も多く、日常の中でスポーツに触れられる場として地域に親しまれている。利幸氏は、日本スポーツ協会上級コーチ資格を持ち、静岡県空手道連盟の強化委員を務める。
●浜松市中央区富塚町
HP:http://tomispo.com

 

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