6月号特集)カインドネス
制度の壁を越え、承継で事業領域を拡張
M&Aで拓く幼児英語教育の可能性
株式会社カインドネス 下山信武 代表取締役(右) 青木秀都 副社長(左)
第三者承継[部門譲受]
インターナショナルスクールの運営を起点に事業を展開してきた株式会社カインドネスは、事業買収により認可保育事業へと参入。異業種からの視点を取り入れた保育の形に取り組んでいる。事業承継と現場改革の両立を目指すその取り組みから、事業の成長へとつながるM&Aの道筋を探る。
「学校で習った英語が現地で全く通用しなかったんです」と話すのは、株式会社カインドネス代表取締役の下山信武氏。大学時代のカナダ留学での経験をきっかけに、英語教育の必要性を強く実感したという。
自らの子どもを豊橋市内のインターナショナルスクールに通わせる中で、共働き世帯にとってより通わせやすい環境の必要性を感じ、「働く親でも利用しやすい場をつくりたい」と事業化を検討。市場を調査する中で競合の少ない浜松に可能性を見いだし、2019年、少人数制の認可外保育施設「ハグミー・インターナショナルスクール浜松」を開園した。
制度の壁に挑む承継戦略
事業は軌道に乗り始めていたが、当初から構想していた「保育料無償化の対象となる認可施設での英語教育」を実現するには、新規参入のハードルが高かった。そこで選択したのが、既存施設の事業承継(M&A)という手法だ。すでに認可を受けた施設の実績を引き継ぐことで、制度の壁を越える一手だった。
事業承継を模索する中で、静岡県事業承継・引継ぎ支援センターを通じて、小規模認可保育所「さくら第二保育園」を運営する経営者と出会う。後継者不在という課題を抱えていた譲渡側と、認可保育所の実績を求めていた下山氏。両者のニーズが合致し、2024年7月、下山氏は事業承継を果たし、株式会社SAKURAの代表取締役に就任した。
「有資格者のスタッフがすでにいること、20年近く地域に根差した園の知名度と信頼があることは大きい」と承継のメリットを語る下山氏。さらに、市の補助金が活用できる小規模認可という仕組みにより、従来より低価格帯で英保育園運営語教育を提供できるようになった。
現場を変える、組織を変える
承継後に直面した最大の課題は、現場の労働環境だった。サービス残業や持ち帰り業務が常態化しており、働き方そのものを見直す必要があった。こうした課題に対し、ICTの導入と業務の見直しを進めた。
手書きで行っていた書類業務をアプリに置き換えて連絡や記録を効率化。同時に、慣行的に続いていたイベントや制作物を見直し、「本当に必要なものだけを残す」方針へと転換した。
「最初はスタッフに戸惑いもありましたが、実際に環境が良くなるにつれて受け入れてもらえました」と副社長の青木秀都氏。面談を何度も重ねながら意識改革を進めた結果、離職を考えていた職員が残るなど、組織にも変化が生まれている。
こうした改革を下支えしたのが、譲渡側の税理士・社労士との連携だ。前経営者からの引き継ぎだけでは把握しきれない現場の実態を士業からヒアリング。特に顧問税理士が小規模保育所の経営に精通していたため、青木氏は認可外とは仕組みの異なる認可保育事業について、質問を重ねながら理解を深めていった。
承継の先に描く英語教育の将来
今回の経験を踏まえ下山氏は、「M&Aは思われているほどハードルは高くない。税理士や支援センターなどのサポートがあれば、異業種からの参入でも乗り越えられる」と話す。
金融の知識を持つ下山氏と住宅メーカーでの経験を持つ青木氏は、異業種の視点から、保育業界に残る非効率な慣習や労働環境の見直しに取り組んでいる。その先にあるのが、無償化の対象となる認定こども園で英語教育を実現することだ。「経済的な理由で諦めていた家庭の子どもにも、英語教育の機会を広げていきたい」と展望を語る。
事業承継はゴールではなく、次の成長に向けた出発点だ。引き継いだ事業をどう変えていくか。その答えを探りながら、下山氏は次の展開に向けてすでに動き出している。
専門家が解説!承継ポイント
熱意が伝わる信頼関係が、承継の実現を後押し
事業承継では、既存の財産(ヒト、資産、経営資源、等)を引き継ぎ、承継後の経営を安定、発展させる指針が重要です。今回の事例では、下山氏の強い思いや姿勢が、譲渡側の信頼を得る決め手となりました。M&A仲介会社などによる大規模なM&Aとは異なり、地域内での承継は経営者同士が直接向き合い、創業理念や経営方針について、相互理解することが伴となります。
(静岡県事業承継・引継ぎ支援センターサブマネージャー 浅井哲夫氏)
株式会社カインドネス
保育・教育事業を手掛けるグループの中核として、全体の運営を担う持株会社。事業承継を通じて子会社化した株式会社SAKURAでは、インターナショナルスクール2園、小規模認可保育所3園の運営のほか、幼児向け英語カリキュラムの提携・コンサルティングを行う。
●浜松市中央区平田町
HP:https://hugme-is.co.jp/