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4月号特集)幻のメスうなぎ復活 新ブランド「でしこ」で産地再生

2026年04月01日

「日本一おいしい」を胸に浜名湖うなぎを次世代につなぐ

幻のメスうなぎ復活
新ブランド「でしこ」で産地再生

125年の歴史を持つ「浜名湖うなぎ」は浜松が誇る養鰻ブランド。しかし、シラスウナギの減少や飼料費の高騰、 他産地の台頭などにより、状況は大きく変わりつつある。こうした中、浜名湖養魚漁業協同組合が立ち上げたのが、最上級ブランド「でしこ」だ。それは商品開発にとどまらず、産地が価値を定義し直す取り組みでもある。

 

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昔からメスのうなぎは身がやわらかく、皮が薄く、脂が乗っておいしいと言われていたのです」。そう語るのは、浜名湖養魚漁業協同組合の外山昭廣組合長。

うなぎは稚魚の段階ではまだ性別が決まっておらず、成長過程でオス・メスに分かれる。かつての露地池養殖では、自然に近い生育環境の下でオスとメスが混在していた。しかし、30年ほど前から主流となったハウス養殖では、その多くがオス化し、メスはほとんど見られなくなったという。

それと同じくして当産地にも陰りが見え始めた。かつて400軒あった養鰻業者は27軒にまで激減。世界で初めてうなぎの養殖に成功した「浜名湖うなぎ」は、高い知名度を誇ってきたが、その評価に依存するだけでは変化する市場に応えられなかった。

「ブランドにあぐらをかいて、何十年も変わらなかったんです」と外山氏は振り返る。鹿児島や愛知など、他産地が新たな戦略を打ち出すたび、産地としての危機感は高まっていった。

転機となったのは、他産地の試験場が行ったある研究成果だった。稚魚に大豆イソフラボンを与えることで、90%以上の高確率でメスに誘導できることが分かったのだ。幻ともいわれたメスのうなぎの飼育が可能になったことで、これを浜名湖うなぎの最上級ブランドとして位置付ける戦略を採ることにした。

「でしこ」は浜名湖うなぎの中の特別な存在として、ブランド全体を引き上げる役割を担う。それは単なる商品開発ではなく、産地の価値を再設計する取り組みだ。

 

厳格な基準が生む、信頼

最上級ブランド「でしこ」を名乗るには4つの基準を満たす必要がある。中でも特徴的なのが品質検査の厳格さだ。

抽出した10匹全てがメスでなければ認められず、この検査を育成途中と出荷前の2回実施する。1匹でもオスが混じれば、そのハウスで育てられたうなぎは通常の浜名湖うなぎとして扱われる。さらに、身質や焼き上がり、食味まで含めた複数の検査をクリアしたものだけが「でしこ」として選定される。

品質基準の高さに対して、意外にも組合員から大きな反発はなかった。背景にあるのは世代を超えて続いてきた産地としての誇りだ。

「浜名湖に残っているのは何代も続いている養鰻家ばかり。いいものを作ろうという意識が強いですから。正直、基準は厳しいですよ。でも差別化するならそこまでやらないと」。厳しい品質基準は、浜名湖うなぎの誇りを取り戻すという、養鰻家の強い意思の表れでもある。

身のやわらかさ、脂の乗り、臭みの少なさが「でしこ」の特長だ。試食では約7割が高評価を示し、これまでうなぎが苦手だった層からの支持も得ている。

一方で“従来通りのうなぎ”を求める声に対してはこう応対する。「全てを『でしこ』にするわけではありません。オスとメスを使い分け、多様なニーズに応えていく。それも伝統ある産地としての浜名湖の強みです」

 

組織の若返りが変革を後押し

産地の変革を支えているのは組織の世代交代だ。理事や職員の中心は40~50代で、販売やPRの企画も若手主導で進む。役員が指示するのではなく、若手が主体的に動く体制ができている。会議資料のデジタル化やIT活用も進み、組合運営のあり方も変わりつつある。

クラウドファンディングでは、953人から1530万円の支援があり、大きな注目を集めた。一方では、立ち上げの段階を越え、継続と発展を問われるフェーズに入っている。「一時的なブームに終わらせず、いかに『でしこ』を定着させていくかが最大の課題です」と同氏は語る。

印象的なのは、「でしこ」開発のヒントが過去にあった点だ。“メスの方がおいしい”という経験則が、科学的知見と結び付き、新たな価値として事業化につながった。

「伝統を守るだけではなく、進化させることが必要です。今まであったものを新しい形に変えていくことが大事だと考えます」。外山氏の言葉は、歴史ある産地が何をすべきかを教えてくれる。

産地が直面する課題は少なくない。それでも「でしこ」は伝統産業が未来に向かう一つのモデルを示している。浜名湖うなぎを再び全国に届ける─その挑戦は、養殖うなぎの発祥地である浜名湖の価値を問い直す試みでもある。

 


浜名湖養魚漁業協同組合 外山昭廣 代表理事
「『でしこ』は浜名湖の養鰻家が長年培ってきた飼育技術の結晶なのです」

1900(明治33)年にうなぎ養殖を成功させた服部倉次郎らが設立した「遠江養魚組合」をルーツに持つ。2024 年に、これまで培った技術の集大成として、肉厚でやわらかなメスうなぎの新ブランド「でしこ」を発表。「伝統を守り、進化を続け、幸福を届ける」という3つの思いの頭文字を組み合わせてネーミングされた。2025年にはグッドデザイン賞(地域部門)を受賞。JR 浜松駅すぐの同漁業協同組合直営うなぎ食堂「丸浜」などで味わえる。
●浜松市中央区馬郡町
HP:https://www.maruhama.or.jp/

 

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