3月号特集)高校と企業がつくる人材育成の現場(浜名高等学校)
在学中から社会と出会う進路支援
高校と企業がつくる人材育成の現場
(左)静岡県立浜名高等学校 中村守孝教諭
定時制高校の生徒一人一人の背景に向き合いながら、浜名高校では働く経験を軸にした進路支援を続けてきた。 多くの企業と出合うことで生徒の主体性を育て、進路の選択肢を広げている。
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-この事業に参加した背景は?
中村教諭 定時制高校の生徒には、昼間に働けるという、いわば「強み」があります。ただ、学校として、生徒と企業との接点をどうつくるかが大きな課題でした。
以前からアルバイト体験や企業見学の重要性は感じていましたが、教員だけで多くの企業に協力依頼をすることは難しいのが実情です。
浜松商工会議所さんに「企業が学校に赴き、生徒が企業から直接話を聞けるマッチング事業」を提案され、「これだ」と思い、参加を決めました。
定時制の生徒が「やんちゃ」というイメージは過去のものです。今は、不登校経験や外国籍、経済的事情など、背景は本当にさまざまです。最初から企業にフルタイムとして働くのはハードルが高い生徒も多く、アルバイトやインターンで少しずつ社会に慣れていく働き方はとても大切だと考えています。
評価は、成績より現場力
-企業側の反応はどうですか。
中村 学校の成績や出席状況よりも、実際の「働きぶり」を重視していただけるよう、企業にアピールしてきました。そのかいあってか、全日制の生徒と比べられた際に、アルバイトでの働きが評価され、定時制の生徒が内定を勝ち取った事例もありました。
今では学内企業説明会の参加希望企業数が募集枠を大きく上回り、断らなければならないほどです。
藤田(会議所職員) 応募企業数が増えている理由としては、学内企業説明会、そして、会社見学・インターンシップ、さらにはアルバイト就業を経て正社員登用につなげていく、そのプロセスにメリットを感じるからだと思います。
一般的な高校生の採用活動は、卒業年度の7月に企業が高校に求人票を提出し、8月に生徒が志望企業の会社見学を1回、9月に採用面接という流れです。
そのため、生徒と企業が直接会う機会は2回程度。どのような生徒が自社で活躍してくれそうか、確かめる機会は多くありません。
ですが、本事業ではアルバイト就業を通して、実際に働いている生徒の姿を見られますので、正社員登用前に自社との相性をじっくり測ることができます。その結果、正社員登用後のミスマッチの軽減につながることが本事業最大の特長となります。
-成果も出ていますね。
中村 2023年度には、浜名高校定時制から4人が正社員として就職しました。アルバイトとして働きぶりを見てもらい、企業側から「ぜひ正社員で」と声を掛けていただいたケースです。学校の成績や1度の面接だけでは測れない生徒の力を評価してもらえ、うれしく思います。
藤田 今では正社員登用数も年々増加しております。インターンシップ・会社見学の件数やアルバイト就業件数も積み上がってきていますので、来年度以降も成果が見込める状況だと感じています。
-生徒にはどのような変化が。
中村 一番大きいのは主体性です。以前は「先生に言われたから応募する」という生徒が多かったです。でも今は、在学4年間で20社以上の話を聞けるようになり、「製造業は合わなかった」「手に職をつけたい」など、自分の適性を具体的に判断できるようになっています。結果として、就職後の早期離職も減るのではないでしょうか。
地域に、人が育つ循環を
-定時制高校ならではの意義とは何でしょう。
中村 卒業後に突然、社会の厳しさに直面して、つまずいてしまう生徒も少なくありません。在学中に働く経験を積むことで、そのギャップを少しでも埋めたい。働く力を持っているにもかかわらず、それを生かさないのはもったいないですから。この事業は、生徒たちを地域の人材として育てるための大切な仕組みだと思っています。
藤田 全日制の高校生であれば、卒業後に正社員として入社してから先輩社員と交流し、関係性を深めていくことになります。
その点、定時制でしたら、正社員登用前のアルバイト就業期間で職場に慣れることができますし、新人研修・教育を前倒しして実施することも可能です。「働きながら学ぶ」という経験を通して、きっと頼もしい仲間に育ってくれるのではないでしょうか。
-今後の展望を教えてください。
中村 できるだけ早い学年から企業と接点を持たせたいですね。1年生のうちから「社会にはこんな仕事がある」と知ることで、将来の選択肢は大きく広がります。学校と企業、商工会議所や行政が連携しながら、地域全体で人材を育てる「浜松モデル」を、これからも活用していきたいと考えています。
静岡県立浜名高等学校 定時制の課程
進路課長 中村守孝教諭
教員生活35年目。社会科(地理・歴史・公民)を担当。定 時制高校に通算24年勤務し、全日制高校では進路課長も経験。 生徒一人一人の可能性に向き合い、企業見学にも自ら同行す るなど現場主義を貫く。昨年まで就労支援を行うNPO法人 の共同代表も務め、生徒と社会をつなぐ実践を重ねている。
●浜松市浜名区西美薗