11月号特集1)検定試験の活用事例:有限会社春華堂
販売士ならではの知識と視点で、春華堂の店舗戦略を支える
「資格」という外部の知見を取り入れ業務の質を一段階押し上げる
浜松を代表する老舗製菓店、春華堂が重要な社内施策としているのが「資格制度」だ。トップダウンの強制ではなく、社員が「学びたい」と思える環境を整え、その意欲に応える仕組みを構築。自発的な資格取得をサポートしている。一人一人の高い向上心と専門性を基盤に事業の成長を目指す、同社の取り組みを取材した。
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春華堂では、社員のスキルアップを促すため、資格取得を推奨する制度が整えられている。該当の資格試験に合格した者には、受験料相当額と毎月の「資格手当」が支給される。正社員はもちろん、契約社員やパート・アルバイトなど、勤務形態にかかわらず利用可能で、入社時に一人一人への説明を徹底している点からも、同社がこの制度を重要視していることがうかがえる。
対象となる資格は、就業規則と、役職に応じて求められる役割や能力を示した「キャリアパス」の中に記載されており、各部署へのヒアリングを通じて随時更新される。ただし、資格が昇進・昇格の条件になっているわけではない。社員は、あくまで自主的に資格取得に取り組んでいる。
一体どのように彼らのモチベーションを上げているのだろうか。総務部総務課の古宮裕里子氏はこう答える。
「無理に働きかけなくても、周りの仲間が積極的に学習し、合格後にそのノウハウを実務に生かす姿を見ることで、『自分もやってみようかな』と自然に思える環境があります。また、資格取得に向けて提出する社内申請書には、直属の上司が応援メッセージを書き添える欄を設けるなど、会社全体で社員の挑戦を後押しできている点も大きいのではないかと考えています」
資格制度で人材育成に客観的な基準を加える
従業員の自発的な成長意欲と、その背中を押す会社の体制。今でこそ企業風土として根付きつつあるが、「最初からそうだったわけではない」と語るのは、経営サポート室/HOWʼz事業部の山下広祐氏。2014年に行われた53年ぶりの新ブランドの立ち上げ、さらに2017年の代表取締役の交代など、会社として大きな転換期を迎える中で、人材育成などの社内制度についてもより良い形に変化させていこうという機運が高まっていったという。
「それまで理想のマネージャー像を社内の基準のみで判断していました。しかし、『もっと外部のものさしを取り入れ、社員それぞれがその道のプロとしてスキルアップできるような仕組みをつくるべきだ』という経営陣の決断と行動が、今の資格制度につながっていると思います」
販売士の知識が売り上げを伸ばす土台に
同社ではさまざまな資格の取得が奨励されているが、特に営業・販売部門が積極的に取り組んでいるのが「リテールマーケティング(販売士)検定」である。
この検定試験では、マーチャンダイジングやマーケティング、ストアオペレーション、販売・店舗管理などを体系的に習得できる。2025年9月現在、同社では29人(1級1人、2級22人、3級6人)が販売士有資格者として働いている。なお、資格手当として1級は1万円、2級は3000円、3級は1500円が支給されている。
山下氏も販売士として活躍する一人だ。2013年に直営店の販売員から店長へのステップアップを打診されたタイミングで販売士検定2級の勉強をスタート。その過程で得た学びが、自身を大きく成長させてくれたと振り返る。
「普段の職場が実践の場だったので、テキストで学習した内容を日々の業務と照らし合わせながら理解を深めていきました。一番の収穫は、これまで感覚で捉えていた『売れる/売れない理由』を、知識と結び付けて論理的に考えられるようになったこと。仕事をする上での“根拠のある自信”を与えてくれました」
販売士としてのノウハウは、会社が実施する施策への理解にも生きた。例えば、固定客を増やすための「3回来店の法則」を応用し、期間限定でビンゴ形式のスタンプカードを導入。来店回数に応じてマス目にスタンプを押し、列がそろったら景品を渡すキャンペーンを実施して顧客から好評を得た。
また、直営店のマネージャーに就いた際は、顧客の動向や店舗ごとの売上高を精査し次の戦略を練るといった、マーケティング業務においても販売士の専門性が役に立ったという。
同氏に加え、販売士資格を取得した多くのメンバーがデータに基づいた緻密な店舗運営を実践し、右肩上がりで伸び続ける直営店の売り上げを支えている。
「今後はわれわれが次世代の成長をアシストする番。彼らが『資格を取って終わり』にならないよう、手に入れた知識をアウトプットする機会をもっと増やしていきたい」と意気込む。資格制度を通じた社員一人一人の飛躍が、老舗菓子屋に新たな風を吹き込み、同社の未来を力強く切り開いていく。
有限会社春華堂
総務部総務課 キャリアコンサルタント 古宮裕里子 次長(左)
経営サポート室 HOWʼz事業部 山下広祐 室長代行(右)
1887年創業。『うなぎパイ』をはじめとする和洋菓子の製造、販売を行う。2014年、53年ぶりの新ブランドとして、五穀と発酵素材が主役の和菓子「五穀屋」と、パイに特化した「coneri」を誕生させる。さらに同年、浜名区染地台にスイーツ・コミュニティ「nicoe」をオープン。2021年には中央区神田町に本社複合施設「SWEETS BANK」をオープン。ダイニングテーブルがモチーフのユニークな建物が観光客にも人気。
●浜松市中央区神田町
HP:https://www.shunkado.co.jp/