8・9月号 特集2)捨てられるはずのレモンの皮が主役に “つながり”を力に変える企業の挑戦(株式会社平出章商店)
地域課題を利益につなげる発想力
捨てられるはずのレモンの皮が主役に
“つながり”を力に変える企業の挑戦
製菓・製パン材料や製菓機械の専門商社である平出章商店は、浜松産レモンを使った菓子材料開発を通じ、
食品ロスの削減、障がい者支援、地元農産物のブランド化など、さまざまな取り組みを展開。
経営理念「つながり創造企業」と社会貢献との結び付きが、持続可能なビジネスモデルとして注目を集めている。
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浜松産レモンを使った商品開発がスタートしたのは9年ほど前のこと。浜北にあるスズキ果物農園から、「果汁を搾った後のレモン外皮を活用できないか」と相談を受け、4ミリ角ミンス※を試作。これが大手菓子店に採用され、レモンケーキとして商品化された。
(※4ミリ角ミンス…4ミリ角にカットしたレモンの皮をシロップ漬けにした製菓材料。焼き菓子やパン、ゼリーなどに使用する。)
「ただ、農家1軒だけでは供給量に限りがあり、安定供給には大量のレモンが必要でした」と話すのは、事業を担当する、つながり創造室の泰澤友和氏。JAと連携し、市場に出せない傷物や規格外のレモンを集める仕組みを整備。初年度は1.2トンを確保し、2024年度は3トンにまで増加。食品ロスの削減、農家の所得アップにも貢献している。
しかし、レモンを丸ごと仕入れることで、皮むき作業という新たな課題が発生。そこで協力を仰いだのが、以前から取引のあった社会福祉法人復泉会が運営するジュース工場「クルミックス」だ。
工場の繁忙期を避けるため、1月~3月に収穫したレモンを冷凍保存し、閑散期である5月~8月に皮むきを実施。これにより仕事量が平準化し、作業者の負担は軽減したほか、新たに果物の皮の販売も可能となり、工賃のアップにまでつながった。
「皆さん、やりがいを感じて毎回心待ちにしていただけているようで、レモンを届けると『ありがとう』の言葉をもらうこともあります」と泰澤氏が笑う。
▲就労支援事業所「クルミックス」でのレモンの皮むき作業の様子。新たなスキルの獲得にもなり仕事の幅が広がった
社会貢献を「本業」に変える
「浜松産レモンミンスの開発に多くの人が関わることで、地産地消、社会貢献といった価値付けに成功した」と話すのは、代表取締役社長の平出慎一郎氏。通常のレモンミンスより価格は高めだが、その価値に共感する菓子店が購入している。現在11社以上と取引があり、今後も増え続ける見込みだ。
このような展開は、当初から描けていたわけではないという。「企業として、お客さまの要望に一つ一つ応えていった結果です」と二人は語る。
取り組みの基盤には、2019年に再定義された経営理念「つながり創造企業」の存在がある。そこには、地域のさまざまなステークホルダーを巻き込みながら、未来を切り拓こうとする強い意志が込められている。
かねてより地元菓子店とのつながりはあったものの、競合他社とどう差別化するのか頭を悩ませていた。だが、創業から培われてきた、“社会貢献をして当たり前”という企業風土が、「つながり創造企業」という経営理念として明文化されたことで、より柔軟な発想で幅広い事業活動ができるようになった。
「食品や機械の販売だけでなく、つながりをつくり、価値を生み出すのであれば、人と会うことも本業といえる」と話す泰澤氏。
「単なる社会貢献では継続は難しいですが、本業と結び付き、利益を出すからこそ持続可能なモデルになる。会社として何を大切にするかを決め、言葉として掲げることはとても重要です」と平出氏が力を込める。
競争から共創へ──持続可能なビジネスへの挑戦
現在、泰澤氏は県外の加工業者に依頼している農産物加工を静岡県内で完結させる体制づくりに取り組んでいる。森町でトウモロコシなどを生産する佐野ファームと連携し、イチゴや栗などの1次加工(ヘタ取り、洗浄、冷凍など)を実施。新たな雇用を生み出すほか、トウモロコシを軸としたまちづくりなど、地域活性化プロジェクトにも発展している。
また、小児がん支援を目的としたレモネードスタンド活動にも協力。さらに、静岡の農産物加工に関わるプレーヤーがモノや情報を交換し、互いにサポートできるプラットフォームの構築にも着手。
さまざまな事業に挑戦するなか、課題は収益化だ。
「今は種まきの時期。10年後、どのように育っているか楽しみです」と平出氏。「限りあるイスを奪い合うのではなく、新たにイスをつくるような仕事をしていきたい」と話してくれた。
▲レモンを提供している生産者と。対話の中にヒントがある
株式会社平出章商店
平出慎一郎 代表取締役社長(左)
泰澤友和 つながり創造室 室長(右)
1949年の創業以来、製菓・製パン材料や製菓機械の卸売り、新店舗の立ち上げ支援などを行う。 農産物の加工事業にも取り組み、浜松産レモンを活用したプロジェクトでは、食品ロスの削減、 生産者の所得向上、障がい者支援など、多方面で社会的価値を生み出している。現在は、静岡 県内で完結する農産物加工の仕組みづくりにも挑戦中。これらの取り組みが評価され、「浜松 市CSR活動表彰優秀賞」「静岡県SDGsビジネスアワード県知事賞(最高賞)」を受賞。
●浜松市中央区中里町
HP:https://www.hiraide.jp/