お知らせ

その他

7月号 特集1)クラウドレジ×AI予測で実現する飲食業の「データドリブン経営」(株式会社マルブン)

2025年07月01日

コロナ禍を転機にDXで経営課題の解決に踏み出す

クラウドレジ×AI予測で実現する飲食業の「データドリブン経営」

DX先進企業として注目を集める愛媛の老舗洋食店マルブンは、クラウドシステムを活用し、スタッフのシフトや仕入れなどを数値予測に基づいて判断する仕組みを構築。“勘と経験”に頼ったマネジメントからの脱却に成功した。その結果、人材不足や原材料費の高騰といった昨今の厳しい状況下においても、結果を出し続けている。

 

ーーーーー

「DXに取り組む上で欠かせないのが、『いつかやろう』と先延ばしにせず、自ら好機を捉えようとする姿勢です」

そう話すのは、創業1923年、愛媛県内で洋食レストランやピザレストラン、海鮮丼専門店を展開する株式会社マルブンの5代目、眞鍋一成氏だ。

眞鍋氏がDXに取り組むきっかけとなったのは、築70年の本店の建て替えと新型コロナウイルスの流行だった。外食産業は未曽有の危機に見舞われ、同社もなすすべなく赤字続きの日々を過ごしていたが、「今こそ新しいシステムを導入し、以前から抱えていた課題を解決するチャンスなのでは」と思い始めたという。

「飲食店は原材料費と人件費によって利益が決まるといわれます。しかし当社の場合は、ワークフローをうまく組めずに人員に過不足が生じたり、担当者によって必要以上に仕入れて廃棄ロスを出してしまったりと、コストをコントロールできずに月によって利益率が乱高下する状態が続いていました。僕はこの原因を“勘と経験”に頼った無駄の多い業務にあると判断。データを活用して誰でも適切に対応できる環境を整えるべきだと考えました」


▲AIが出した来客数や注文数などの予測を確認しながら、材料の仕入れ数を決定。データに基づいて行うことで、経験が浅いスタッフでも的確に判断できるようになった。その結果、月によって変動していた原価率を目標数値に保つことに成功

AIが導き出した「数字」を意思決定のヒントに

同社が導入を決めたのは、(1) 来店客が自身のスマートフォンでQRコードを読み込んで食事をオーダーするシステム (2) クラウド型POSレジ (3) AIによる需要・来客予測システムの3つ。

(1)は「注文取り」という業務をなくし、必要な人員を減らすとともに、人手が必要な他の仕事に時間を割けるようするためのもの。来店客からの反応が気がかりだったが、スタッフと接触せずに注文できるという利点がコロナ禍という状況にマッチし、スムーズに定着させることができた。

そして眞鍋氏が、必ず取り入れたかったと話すのが(2)と(3)である。クラウドレジとAI予測システムを組み合わせて使うことで、過去の実績から客数、客単価、客の属性、各メニューの注文数、売上高などの予測を、時間・日・月・年単位で算出。それらを基に、必要なスタッフの数と配置の仕方、食材の仕入れ数、仕込みの量を合理的に設定できるようにした。また、成果をリアルタイムに数字で確認し、効果的な施策の検討や改善点の洗い出しにも活用している。

その結果、人件費を業界平均(約30%)より5~6%低く抑え、月によって変動していた原価率を一定に保つことに成功。魅力的な店づくりも加速し、客数と客単価は共に右肩上がりだ。さらに、AI予測から来客数が少ない時間の営業をやめたり、売上高に大きく影響しない期間に長期休暇を設けたりするなど、働きやすい環境の整備も進んでいる。

「属人的なスキルに依存しなくても結果を出せるようになったので、若手が目覚ましい活躍を見せています。外食未経験のスタッフが3年で店長になった例もあります。彼が役職に就いて1年が経ちましたが、店舗売上高は対前年比105%と順調に伸びています。

同社のDX推進事例は「全国中小企業クラウド実践大賞2023」で審査員特別賞に輝いた。それを発端にメディアから取り上げられるようになり、同社の先進的な取り組みを知った若い世代の入社希望者も増えたという。


▲マルブンが使っているAI予測システムでは、過去の実績から今後の売上高や来客数、各メニューの注文数などの予測が可能。これにより、その日、その時間に必要な人員を配置できるようになり、シフト組みの最適化を実現した

DXがもたらす未来をスタッフと共有

システムの導入は2020年12月の本店を皮切りに、試行錯誤を重ねながら3年もの時間をかけて全店舗で実施された。中には過渡期に順応できず辞めていく人もいたが、「変革にはマイナスな出来事も避けられない」と眞鍋氏。

「画期的なシステムを導入したからといって会社の中身が一気に転換するわけではありませんからね。スタッフには、勤務時間が短くなり休みも増えることと、人を喜ばせたくて外食の世界に入った者も多いため、お客さまのために使える時間が増えることを訴え続けました。今では、全員がシステム導入の目的を理解して動けていますし、自発的な提案や経営目線の相談も増えています」

眞鍋氏が言う“システム導入の目的”。それは、AIが出した予測に従って行動することではない。データはあくまでも判断材料であり、どういうアクションを取るかを考え、最終的に決定を下すのは人なのだと同氏は語る。

成功するまでPDCAを回し続ける

「他のマネジメント手法にもいえますが、企業によって経営課題や目標は異なるため、与えられた情報をうのみにせずに自社流に落とし込んで実践する必要があります。予測に基づいて仮説やシナリオを立て、行動し、結果を分析して次の取り組みに生かす。このPDCAを何度も回し続けて、初めて自社におけるDXの形を捉えられるのだと思います」

最後に、眞鍋氏にDXを成功させる秘訣を聞くと、2つのポイントを教えてくれた。

「一番大事なのは、踏み出す勇気です。人口減少が加速する現代においてデジタル技術に頼るのは必然。何もせずに、人手が減り衰退する未来を待つくらいなら、分からないことだらけでもDXに取り組んでみるべきです。パワーポイントで資料を作るのさえままならなかった僕でもできたのだから、きっと誰でもやれるはず。そして続ける覚悟も必要です。投資したなら収益が出るまで行動し続ける。DXでもその他の新規事業においても、経営者がすべきことはこれに尽きるのではないでしょうか」

 

株式会社マルブン
眞鍋一成 代表取締役

1923( 大正12)年に「丸文食堂」として開業。現在は愛媛 県内に洋食レストラン1店舗、ピザレストラン3店舗、海鮮 丼専門店1店舗を経営する。5代目の眞鍋一成氏は大学卒業 後、調理専門学校を経て東京のレストランで修行。2012年 に株式会社マルブンに入社。2023年に代表取締役に就任。 「全国中小企業クラウド実践大賞2023」審査員特別賞を受賞。

●愛媛県西条市小松町
HP:https://marubun8.com/

 

一覧に戻る
アクセス
入会案内
貸会議室申込
来所予約
お問合せ