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ホームオンラインNEWing平成21年8月1日号


東海地震に備える

居安思危

第5回 危機管理のお手本「タイレノール事件」と防災マニュアル・訓練


 今回は、危機管理のお手本と言われる「タイレノール事件」についてお話します。
 タイレノールは、胃に優しい解熱鎮痛薬として、ジョンソン&ジョンソン社が販売するアメリカシェアNO.1の家庭常備薬です。日本でいえば、バッファリンのようなどこの家庭にもある薬です。1982年9月、事件はシカゴで発生しました。外部の第三者によってこの「タイレノール」に、シアン化合物が混入され、それを知らずに服用した消費者7名が死亡するという衝撃的で痛ましい事件です。

会社の利益よりも消費者の命優先
 シカゴ警察はシアン化合物によって死亡した7人の市民は直前にタイレノールを服用していたことを発表しました。この時点では、タイレノールにシアン化合物混入の疑いがあるというだけで、死亡原因かどうかは不明でした。しかし、ジョンソン&ジョンソン社の対応は素早いものでした。事件発生直後に、当時のジェームズ・バーク会長みずからが記者会見を行い、消費者に対して「タイレノールは飲まないように」との警告を発するとともに、混入の疑いのある製品の全回収を発表しました。その後、おびただしい回数のテレビニュースや記者会見に登場し、ジョンソン&ジョンソン社が会社の利益ではなく、消費者の命を守ることを第一に考えているという態度を示し、これ以上の被害がでないことを訴え続けました。タイレノールの生産は中止され、販売をやめて小売店から製品が回収されました。
 消費者向けのホットラインが開設され、あらゆる情報を提供する姿勢を示しました。消費者から回収するために引換券が発行され、シアン化合物を含まない新しい薬と交換できるようにしました。このときの回収費用は1億ドル以上だと言われています。

当たり前の経営哲学、当たり前の行動
 同時に、ジョンソン&ジョンソン社は、異物混入ができないようにカプセルや包装方法を緊急に開発し、大規模な広告と売出しキャンペーンを行いました。その結果、これほどの事件であったにもかかわらず、事件の2月後には、タイレノールはそれまでの売り上げの80%近くを回復し、さらにバーク会長は「もっとも優れた経営者」として賞賛を浴びました。
(詳しい事件の内容は同社のHPに「タイレノールものがたり」に掲載されています。http://tylenol.jp/story02.html
 この事件が物語る最大の教訓は、経営トップが、同社の掲げる「我が信条(Our Credo)」の中にある「消費者の命を守る」という当たり前の経営哲学を貫いたことです。当時、同社はこのような事件に対する緊急事態対応のマニュアルはありませんでした。しかし、メディアを通じた経営トップの姿勢を見ていた同社の数万人の社員一人一人は、自分が何をすべきかを考え理解し、マニュアルなしでも全社員が「消費者の命を守る」という当たり前の行動を実践したのです。このなかには、言い訳はありません。危機管理のお手本と言われるゆえんです。

人命に「自然災害だから」は通用しない
 東海地震の発生が叫ばれる中、「お客様・従業員の人命安全第一の防災対策」の遅れに、自然災害だから仕方がないという言い訳は、通用しません。「お客様・従業員の人命安全第一」の姿勢は、企業の命を守る姿勢と同じことです。企業の命を守ることを目的とする事業継続計画(BCP)が経営戦略そのものであるといわれる意味もそこにあります。皆様方の会社の経営理念に従ってBCPを策定し、その考え方を社員に教育と訓練によって徹底し、いざというときにマニュアルなしでも行動できるようにしておくことが危機対応の神髄だと思います。逆説的な言い方ですが、防災マニュアルは、いざというときに防災マニュアルなしでも対応できるマニュアルであるべきで、そのための訓練は、想定外の事態が発生したシナリオによって行う必要があると考えます。
次回は、「東海地震説とリスク心理」について書きます。



ジョンソン&ジョンソン社の英語版HPにある「我が信条」
http://www.jnj.com/connect/about-jnj/jnj-credo/

(IST経営コンサルティング 石井洋之)

※タイトル『居安思危』とは『安きにありて危きを思う』という中国の教え


 
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